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江ノ島と竜口山
五百年もの遠い昔。 武蔵と相模の国境、鎌倉の深沢村に周囲四十里もある湖があった。そこには、
五つの頭を持った竜がおり五頭竜といわれておった。湖の周りには、モミ、ツガの原生林が生い茂り、昼なお暗く飢えたオオカミが
たむろしておったという。
五頭竜は、ときおり里を襲っては、子供を一飲みするとザーザーと草をなぎ倒しながら満足げに湖へ帰っていった。村の衆は、五頭竜が子供を飲んで湖に帰っていく道を、死んだ子供が山を越えるということから「子死越」と呼んでふるえおののいておった。ここが今の「腰越」という。
村では、子供を守るために昼でも戸を閉め、村境には見張りをたてていた。
そのため、五頭竜は、子供にありつくことが出来なかった。
年ごとにやせた五頭竜は、ついに怒り狂い山崩れをおこし、洪水を起こし、時には、火の雨を降らせて、子供を求めておった。
村では、夜ごとに寄り合いが開かれた。長者はうち沈んだ一同を見渡した。
「のお、みなのもん、こう災難続きじゃ村は死に絶えてしまう・・・何としても、五頭竜様の心を鎮めにゃならん。人身御供・・・酷なことじゃが村のためにはこれしか手がなるまいのお」
村の衆は、村のためと言われると返す言葉がなく重い足取りで帰っていった。
そうしたとき一大異変が起こった。 それは、欽明天皇の十八年四月十二日であった。
前夜から海岸一帯にどす黒い雲、霧が立ちこめた。不気味な一夜があけると地の底がおどろおどろと響いたかと思うと大地震が起きた。
山は裂け、津波が村や、山ひとのみときばをむいたように襲ってきた。
こうしたことが、なんと十日間も続いたが、四月二十三日辰の刻に地鳴りは嘘のようにピタとやんだ。村人は、ほっとした。それもつかの間、今度は、海の底でゴーッ、ドーンという大爆発が起こり、真っ赤な火柱とともに岩が天まで吹き上げられた。そして小さな島がムックとできた。それが江ノ島である。
五頭竜は、このありさまを湖の中から目をむき、かたずを飲んで見守っておった。すると天から美しい姫が紫雲にのられ、左右に童女を従えて静しずと島に降りてこられた。その時どこからともなく美しい音楽が流れ何ともいえぬ香りがただよってきたという。
五頭竜は、グーンと身を乗り出した。「むーん、なんと美しいお方じゃ・・・よーしあの姫こそわが妻に」と、五頭竜はしぶきをあげ、波を蹴って江ノ島へやって来た。
「もうし、姫殿、わしはこのあたりを支配する五頭竜。どうじゃ、わしの妻とならぬか」
五頭竜は、にらみつけ返事を待った。 「なんと申す五頭竜!そちのように里人を苦しめ、なんの罪もなき幼子を人身御供として求め、田畑を荒らし・・・あらん限りの罪を犯した者のもとへと弁天は行かれませぬ」と、弁天様は洞窟深く入って行かれた。
五頭竜はすごすごと帰っていったが、何を思ったかあくる日、再びやってきた。
「弁天様、お許しくだせえ。わしはなんと恐ろしいことをしてきたか・・・これからは心を入れ替え、きっと村人のために尽くしますでゆるしてくだせえ。どうか、このわしを信じてくだせえ。五頭竜は生まれ変わりましただ」
弁天様は、五頭竜の涙ながらの真剣な眼差しを見つめておられたが、静かに手をさしのべられた。
それから五頭竜は、干でりの年には雨を降らせ、実りの秋には台風をはねかえし、地震で津波が襲ったときには、波にぶち当たって津波を跳ね返していた。しかし、そのたびに五頭竜の体は、めっきり衰えていった。そしてある日、
「弁天様、わしの命もそう長くねえ、これからは、この土地の山となってこの村をお守りしとうなりました。わしの心を入れ替えてくださった弁天様のご恩は忘れません」と、言うと五頭竜は、海を渡って対岸につくと、ひとつの山になってしもうた。この山が、片瀬にある滝口山だ。
村人は、ここに五頭竜を祀った社をたて、滝口明神と名付けた。
流水破風造りの古びた本殿には、体長三十センチほどの五頭の竜の木彫りがご神体として納められている。この明神社は、約一キロ離れた江ノ島神社が管理しているが、今でも江ノ島神社では、六十年に一回「巳年式年大祭」をおこない、この日には、竜口明神から五頭竜の彫り物をみこしで江ノ島へ運び。弁天様とお会いさせている。
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